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  カニが来た。
 一口にカニといっても色々あるが、それはぐちゃぐちゃにほぐされた身が詰まった安い缶詰でもなければ、スーパーで買えるどこ産だか分からないような怪しげな冷凍カニでもなかった。大ぶりで一匹丸ごとの、北海道産タラバガニであった。
 それが、立派な桐箱に入れられて、クール宅急便で送られてきた。
 宅配業者が片桐家のインターフォンを鳴らしたのが、午後五時すぎのこと。この家の主婦である妙子が荷物を受け取ったとき、その場にいたのは、高校一年生になったばかりの長女・歩美と、飼い猫のスズだけだった。
 妙子は宅配の青年に愛想を振りまいてサインを済ませると、何かの懸賞にでも応募してたかしらと首を捻って、伝票を覗き込んだ。
 そこに書かれていた送り主の名前は、夫の兄のものだった。
 義兄は十年ほど前、老母の面倒を弟夫婦に押し付けて北海道出身の嫁の地元へ移り住むと、さっさと向こうの家の牧場を継いでしまった。それきり滅多なことでは顔を見せないが、一応は思うところがあるらしく、時々こうやって前触れなく何かしら送ってくる。
 さておき、タラバガニと言えばカニの王様である。
 夫の裕二は、役職こそ課長となってはいるものの、勤務先は先ごろからの不景気にあおられて日々喘いでいる小さな会社で、月収はここ数年上がっていない。それに妙子がスーパーのパートで稼いでくる細々とした小金をあわせて、どうにか五人家族の生活をやりくりしている。タラバガニは、そんな自分達の口にそうそう入るような代物ではなかった。
 裕二の勤務先は電車と徒歩で片道一時間ちょっとの場所にある。終業は五時、すぐに会社を出たならば午後六時半前には家に着く計算だが、夫が残業せずに真っ直ぐ帰ってくるということは、実際にはまずない。早い日でも、家に着くのはせいぜい八時すぎといったところだ。
 妙子は振り返って、後ろからラベルを覗き込んでいた娘の顔を見た。歩美もまた、顔を上げて妙子の目を見かえす。
 短い目配せとともに「父さんが帰ってくる前に食べよう」という了解が、暗黙のうちに交わされた。
 今からボイルしてすぐ夕飯にして、それから家じゅうの換気。妙子は頭の中で計算して、もう一度頷いた。時間は充分だ。
 今このとき二人の他に家にいるのは、義母のチヨ子だけのはずだった。歩美の弟である俊太が、つい十分ほど前に「いってきます」と出かけたのを妙子は覚えていたが、その行き先までは知らなかった。遅くなるようならばそう言ってから出かけるだろうと思いながらも、妙子は一応娘に確認することにした。
「俊太は?」
 訊かれた歩美は、ぶすっと顔をしかめた。せっかく夫と自分の娘にしては可愛い顔に産んであげられたというのに、すぐこうやってしかめ面をするものだから、若いうちから眉間にしわが寄りはしないだろうかと、母としてはそこが気になって仕方がない。
「コンビニ行ってるだけだよ」
 弟の行方をきっちり把握していたらしい歩美が、舌打ちをしながら答えを返してきた。妙子はその下品なしぐさをたしなめようかと思ったが、言っても聞かないのは分かりきっているので、ただ頷いた。
「それなら、すぐ帰ってくるわね。じゃあ、四人できっちり分けましょう」
 妙子が重々しく頷いてそう言うと、歩美は嫌そうなため息をついた。
「あいつにカニの味なんか、わかりゃしないのに」
「そんなこと言わないの。俊太もカニ大好きなんだから」
 妙子は一応はそう娘をたしなめると、カニの入った桐箱を持って台所へ向かった。歩美はぶつぶついいながらも、ちゃんとそのあとに付いてきた。

 歩美は母から受け取った桐箱の蓋を開けて、歓声を上げた。
 カニは思っていたよりも大きかった。封を開けるのを歩美に任せて一番大きい鍋を引っ張り出していたはずの妙子も、いつの間にかすぐ傍に寄ってきて、眩しげに箱の中のカニを見つめていた。母娘の感極まったため息が、台所と続きになっているダイニングに響いた。
 カニを茹でる用意の間に妙子がなめこの味噌汁を炊いて、大根サラダを拵えた。歩美もその手伝いを命じられて、そのまま台所に残った。
 いつもならば手伝わされることに文句のひとつも言うのだが、今日ばかりは余計なことを言って取り分を減らされでもしたらたまらないと、歩美は黙って料理を手伝った。妙子は気まぐれだから、拗ねるとそういう子どもじみた罰を言い渡すことがある。その理由が大人げなかろうが何だろうが、『あんた今日の晩御飯抜き』と、母がひとたびそう言ったならば、それが厳密に実行されるのが、我が家の法なのだ。
 カニが茹で上がるより先に、味噌汁とサラダが仕上がった。あとは昼の残り物の煮物。頃合もほどよく、炊飯器が米を炊き上げて電子音を鳴らした。
 妙子が今日のメインの予定だったロールキャベツを明日の昼食に回すことを宣言したのが、六時少し前のことだった。茹で上がったカニが、いい匂いを漂わせていた。
「これは換気が大変そうね」
 妙子がそんな風に呟いて、使った調理器具を片付け始めた。
「お父さんが帰ってくる前に、ね」
 歩美は皿を出しながら、悪びれずにそう言った。
 それから二人は黙々と、カニの身を殻から外し始めた。それぞれが好きにほぐしながら食べればよさそうなものだが、これにはそれなりの理由がある。
 数年前、やはりカニが食卓に上ったときのことだ。まだ小学生だった俊太がうまく身を殻から外しきれずにもたついているうちに、歩美がしめたとばかりに一人で次々と食べたのだった。弟は途中で顔を真っ赤にして泣き出して、それをきっかけに延々と四時間に及ぶ壮大な姉弟喧嘩が繰り広げられた。
 しまいには喧嘩両成敗で二人とも妙子から拳骨をくらった挙句、一家の間では厳密な協定が結ばれた。すなわち、カニの身は先に全部ほぐして、平等に分けてから食べること。
 そういうわけで、二人がかりで黙々とカニの身をほぐしていると、やがて誰かが玄関を開ける音が響いた。すぐに、どたどたと元気のいい足音が続く。俊太が帰ってきたのだ。歩美は顔をしかめた。
「たっだいまー、あれ、何カニじゃん。やっりい」
 中学二年にしては幼い俊太は、妙子の手元を見て小さな子どものように目を輝かせた。手にはコンビニ袋を提げて、何やらスナック菓子をがさがさ言わせている。
 歩美はきっと弟の目を睨んで、念を押した。
「四等分よ」
「はいはい」
 俊太は聞いているんだかいないんだか、目線はしっかりカニに釘付けになっている。カニはもうおおむね殻から外されて、皿の上に山盛りになっていた。
 歩美はそんな弟の様子を横目に見ながら、作業の手を止めて椅子から立ち上がった。
「ご飯の前に、トイレ行ってくる。先に食べないでね」
 歩美はそう言って残りの作業を母に任せると、もういちど弟を牽制するように睨んで、台所を出た。

 ちょうどそのとき、裕二は浮かれ気分でJRの改札口から外へ出たところだった。
 名ばかりの管理職には残業代がつかず、それでもそうそう居残る部下を放り出して定時に帰るというわけにもいかない。それで普段は早くても七時前ごろ、遅ければ十時過ぎに職場を出ることも珍しくないのだが、今日は違った。裕二のデスクがある二階フロアの配電工事があり、終業時間以降はフロア全体が使えないことになったのだ。裕二はいちおう課の責任者ではあるが、工事には総務課長が立ち会うことになっているので、今日はもうすることがないのだった。
 工事の予定そのものは少し前から決まっていた。あらかじめ妻に伝えておけば、少しは豪華な夕食にありつけるかもしれないと、一度は考えたのだが、もしかしたら専務あたりが「どうせ仕事ができないんだから飲みに行こう」などと言い出すかもしれないという危惧があったので、今日のことは家族に何も言っていなかった。
 専務は飲み始めると過去の苦労話だか自慢話だかを延々と続けるたちで、正直に言うとできるだけつきあいたくはない。それでも、社員も三十名に満たない小さな会社で人間関係を疎かにしていてはとても勤まらないから、誘われたら諦めてついていくつもりだった。
 だが、今日は幸いにも専務は何も言ってこなかった。それで、「たまには早く帰ろう」と部下たちに声を掛けて、裕二は無事に定時で帰途についたのだった。会社を出るときに一瞬、家に電話しようかと考えたが、たまには家族を驚かせてみようかと悪戯心を出した。
 裕二は歩きながら、上着のポケットから携帯電話を出した。すっかり腕時計を持ち歩かなくなったな、などと考えながら。
 携帯の時刻表示はちょうど午後六時だった。ここから家までは普通に歩いて、だいたい二十分。普段はすっかり日が暮れてから帰ることが多いから、家の近所がまだまだ明るいことが、やけに嬉しい。
 裕二が携帯を上着のポケットにしまおうとフリップを閉じたちょうどそのとき、手の中で携帯が震えた。まさか仕事の呼び出しじゃないだろうなと眉をひそめて、裕二はもう一度画面を開いた。

 トイレに向かう娘の背中を見送りながら、妙子はちらりと俊太の方を見た。不精な息子は、さっき一度帰ってきていたにも関わらず、まだ学生服のままだった。
「俊太、あんたご飯の前にちゃんと着替えてきなさい。ついでにおばあちゃんを呼んで来て」
 妙子が俊太に指示を出したちょうどそのとき、玄関からチャイムの音が響いた。
 家族は全員合鍵を持っているから、いちいちチャイムを鳴らしたりはしない。妙子は顔をしかめて時計を見上げた。午後六時。いったい誰だろう。夕飯前はどこの主婦だって忙しいに決まっているのに、まったく迷惑な客だ。
「今日はよくチャイムの鳴る日ね」
 妙子はぶつぶつ言いながらも手を拭いて、玄関へ向かった。俊太が台所から出てくる足音を背中に聞きながら、「はいはい」と声を上げて玄関へ向かう。まだ鍵が閉まったままの玄関の向こうから「回覧板です」と、向かいの伊藤さんの声がした。
「はーい、今出ます」
 妙子は玄関を開けながら、背中で「ばーちゃん、そろそろ晩飯だって」と俊太が声を張り上げるのを聞いた。続いてふすま越しにくぐもって聞こえる、義母の返事。
「こんばんわ」
 伊藤さんのにこやかな挨拶に被せて、俊太が慌しく階段を駆け上る音が響く。急いで着替えて戻ってこなければ喰いっぱぐれると言わんばかりの、どたどたした音だった。育ちが悪いと思われそうで、妙子はちょっと赤面した。
「お夕食時にごめんなさいねえ」
 伊藤さんは済まなそうにちょっと頭を下げた。
「いーええ。いつもご苦労様です」
 妙子が思わず手を振って愛想よく言うと、伊藤さんは途端に笑顔になった。にこにこしながら回覧板を妙子に手渡して、「そういえばお隣さん、引っ越されるんですってね」と世間話を振ってくる。
 妙子は笑顔をひきつらせながら、相槌を打った。今からカニを食べるところですからと邪険にあしらうだけの度胸はなかった。
 主婦の世間話には際限がない。「夕飯時に」なんていうのは正真正銘の社交辞令であり、伊藤夫人の話はそうそう尽きそうになかった。妙子は、これは長くなるかとじりじりしながら、どうにか穏便に話を切るタイミングを伺っていた。
 だが、結果として三分も話さないうちに、世間話は中断することになった。調子よく話す伊藤夫人が途中で話を切って、「あら歩美ちゃん」と声を上げた。
 振り返ると、歩美が「こんばんわ」と蚊の鳴くような声で挨拶しているところだった。弟相手には大声でがなりたてるくせに、この子も内弁慶というかなんというか。
 妙子が呆れていると、歩美はすぐに小さくぺこりと頭を下げて、小走りに台所に向かっていった。
「歩美ちゃん、もう高校生でしたっけね。早いわねえ」
 伊藤夫人がため息をつきながらそう言った、そのときだった。
 台所から、歩美の悲鳴が響き渡った。

 なんだかお取り込み中みたいねと、ようやく話を切り上げて帰る伊藤夫人を見送ったあと、妙子はいつもの習慣で玄関の鍵をきっちりかけてから、回覧板を放りだして台所に急いだ。
「どうしたの、歩美」
「母さん」
 歩美は妙子の方を振り返ると、蒼白な顔で口をぱくぱくさせた。
「カニが、カニが……」
 わなわなと震える歩美が指差す先を見て、妙子は口をあんぐりと開けた。
 山盛りになっていたはずの剥き身のカニが、忽然と姿を消していた。
 残っているのは皿の上の汁と、剥いた後の殻ばかり。
「誰がこんなことを……」
 妙子がわなわなと呟く背後から、どたどたと階段を下りてくる音がして、俊太がひょいと顔を出した。
「うるさいなあ、姉ちゃん。何騒いでんの」
 二人は俊太を振り返ると、無言のまま同時に皿を指差した。
 俊太もまた悲痛な表情を浮かべて、目を見開いた。
「何、俺が着替えてる間に皆で食べちゃったの!?」
「馬鹿いわないの!」
 思わず妙子は息子を叱りつけた。俊太は一瞬首を竦めると、恨みがましく妙子の目を見つめてきた。
 妙子はそれ以上怒る気が失せて、再び皿の方へ視線を向けた。だが、何度見ても、やはりそこは空だった。
「誰かが、食べたのよね……」
 歩美がそう言って、食い入るように皿を睨んだ。俊太も同じように、じっとカニの殻を見つめている。妙子は台所を見渡した。ついでに冷蔵庫の横の裏口をちらりと見たが、まさか泥棒が入ってカニだけを食べて逃げるなんて馬鹿な話もないだろう。つまり、二人のうちのどちらかがやったのだ。
「あんたたち、どっちなの。正直に言いなさい」
 妙子が姉弟の後ろ頭に向かって言った途端、歩美が親の仇でも睨むかのような目で俊太を見た。
「俊太しかいないじゃない」
「はあ!? 何でだよ!」
 俊太がすっとんきょうな声を上げた。歩美はきっと弟の目を睨みつけたまま、さらに言い募る。
「あたしトイレに行ってたもん、あんたが最後に台所を出たんじゃない」
 その非難に、俊太が首をぶんぶんと横に振った。
「俺だって、母さんが玄関に行ったあとすぐ、自分の部屋に上がったよ。聞いてただろ」
 俊太の言葉に、妙子は思い出しながら頷いた。たしかに、台所を出てすぐに、後に続く足音が聞こえてきた。
「だろ。あんな短い時間で、あれだけあったカニを食えるもんか」
 歩美は俊太のその反論に、言い返す言葉に詰まったようすで、ぎゅっと眉を寄せて黙った。それに追い討ちをかけるように、俊太がまくしたてる。
「だいたい、それを言うなら、姉ちゃんが最初に台所に戻ってきたんだろ。自分で食っといて、自分で大声上げたんじゃねえの」
 言われた歩美はぎょっとした様子で俊太を見つめ返した。
「歩美、あんたなの?」
 妙子は歩美の目を見て、そう聞いた。自分で食べておいて弟に罪を着せようなんて、なんて娘なの。
 だが、歩美は必死でぶんぶんと首を横に振った。
「あたしだって、トイレから出たあと台所に入ってすぐに叫んだんだから、食べる暇なんてなかったわよ。母さん、聞いてたでしょ」
 言われて、妙子は眉根を寄せて記憶を辿った。
「そうね、たしかにそうだったわ」
 妙子は娘の言うことを認めて、頷いた。間違いない。
「でしょ。だいたい俊太じゃあるまいし、あたしがそんな意地汚い真似すると思う?」
 歩美は胸をなでおろすと、そう憎まれ口を叩いた。俊太がむっとして、姉を睨む。もう、この姉弟は顔を付き合わせれば喧嘩ばっかりだ。
「姉ちゃんはいつも意地汚いじゃないか」
「ぶつよ」
 うんざりして、妙子は二人を遮った。
「ああもう、よしなさい」
 妙子は改めて、空の皿を睨んだ。何をどう言おうと、この中の誰かが食べたのだ。
 この掛け合いを聞いている限り、二人が共謀してやったとはとても思えない。大体、姉弟がふたりだけで台所に残った時間というのはなかったはずだ。
「皆で騒いで、いったいどうしたんだい」
 騒ぐ三人の後から、義母のチヨ子が姿を見せた。チヨ子は今更のようにくんくんと鼻を鳴らした。
「おや、今日はカニかい」
 のんびり聞いてくる義母の顔を見て、妙子は肩を落とした。
「その予定だったんですけどね……」
「カニが消えちゃったのよ」
 歩美がそう言って、じとっと俊太を睨んだ。妙子はそれを横目に見ながら、一度冷静に状況を整理しようと、額に手を当てて考えた。
「伊藤さんが来たとき、たしか六時ちょうどだったわね。母さんが台所を出たときには、カニは確かにテーブルの上にあった」
 妙子はそう口に出して確認した。それには俊太がうんうんと頷いた。
「そのときは、歩美はもうトイレに入ってたし、俊太が二階に上がる足音もすぐに聞こえてきた」
 妙子はひとつずつ、起きたことを順に思い出した。それから時計を見上げた。まだ六時十分すぎ。
 カニがないと騒ぎ始めてから、すでに五分以上は経ったような気がする。つまり、カニが姿を消したのは、せいぜいほんの五分ほどの間の出来事だったのだ。
「母さんは伊藤さんと……そうね、二、三分くらい話してたと思う。そうしたら、歩美がトイレから出てきて、伊藤さんに挨拶したわよね。それから歩美は台所に入った。そこで、すぐに悲鳴が聞こえてきた」
 そして、そのときは俊太はまだ二階にいたはずだ。その間、誰かが階段を上り下りする足音は聞こえてこなかった。もちろん、足音を潜めて行き来することはできるかもしれない。だが、学生服だった俊太は今ちゃんと着替えてここにいる。着替えた上で二往復してカニを食べるのに充分な時間があったとは、ちょっと考えにくい。
「おばあちゃんはずっと部屋にいたしね」
 歩美が付け足すように、そう言った。
「あんた、おばあちゃんまで疑ってたの」
「一応よ、一応」
 呆れた妙子が睨むと、歩美は両手を上げた。妙子はチヨ子を見て、すいませんと頭を下げた。立ち話に疲れたのか、義母はいつの間にか一人、椅子に掛けていた。チヨ子は別にいいよと軽く笑って、二人の孫の顔を交互に見た。
「あれだけのカニが、あの短い間で、一体どこに消えたっていうの」
 妙子は改めて、忌々しげに皿を睨んだ。まだ漂っているカニのいい匂いにつられてか、俊太の腹の音が、台所に響きわたる。
 四人の間に、重苦しい沈黙が下りた。ふとチヨ子が何か言いたげな顔をしたが、結局は口をもごもごさせて黙り込んだ。



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